エジプトに比肩する〝最古級〟のギョベクリ・テペ遺跡あり、世界史でおなじみ鉄器のヒッタイト帝国の都跡あり。古代ローマの大都市エフェソスからの、ビザンツ帝国、昔日の栄光を語る大聖堂アヤソフィア。そしてそしてのオスマン帝国トプカプ宮殿、ブルーモスク…。
これがトルコです。
〝時代ごとの断面〟を、実際に体感できるのがトルコの真骨頂。〝旅するトルコ史〟を、現地で歩いてわかる歴史に絞って、駆け足でご紹介します。
*世界史上きわめて重要なトルコ革命など近現代は対象外です。
*明日8月4日夜に追記と写真追加を行います
目次
序章:トルコの起源は、エジプト級

トルコの起源を探る鍵は、2つ。先史時代の遺跡群ギョベクリ・テペは、エジプト文明より古い時期にさかのぼる「人類最初期の巨大宗教施設」のひとつとされます。
そして鉄器時代、ヒッタイト帝国が都をハットゥシャに定め、アナトリアを中心に栄えました。
これら2つの古い起点を目にできるトルコは、恐るべしのタイムトラベルな旅先です。
古代ローマのド迫力はローマよりもトルコで知れる

トルコはかつてローマ帝国の重要な属州でした。そしてエフェソスでは〝都市まるごと〟でローマ帝国の繁栄を実感できる遺跡です。
ケルルス図書館に仕込まれた演出とは?
まずの驚きは、紀元2世紀に建てられたケルスス図書館。コンディションよく遺った華麗なファサードは、労せず古代ローマへとタイムスリップに誘います。2層のファサードは、列柱の長さをわずかに変えて遠近感を誇張する“偽遠近法”まで仕込んでいるという。さすがのローマ人です。
ちなみに図書館の下はエフェソス遺跡の猫たちの寝床。夕方になると、遺跡のそこかしこからたくさんの猫たちが地下のねぐらへと潜りこんでいきます。
古代ローマのお金持ちの家は、床暖あたりまえ

図書館のすぐ上手、キュレテス通りの〝山の手〟斜面には、富裕層の邸宅群「テラスハウス(ヤマチ・エヴレリ)」が覆屋の下、公開されています。床のモザイクと壁のフレスコ、床暖房まで完備の豪邸。見学は別料金です(2025年15ユーロ)が、必見。
シチリア島の「カサーレ荘」はエフェソスより少し時代が後ですが、ここと合わせて内見すると、もうアナタも完璧ローマのハイソ
聖書にも登場する事件が起きた大劇場
約2万5千人収容というスケールの巨大な劇場は、自然の丘を生かした観客席と緻密な音響設計により、最上段でも演者のささやき声が響き渡るとか。楽しむの大好きローマ人の劇場にかける熱意(?)が伝わってきます。
この劇場からは、港へまっすぐ伸びるハーバー通り(アルカディアヌス)も一望。いまは港は土砂で埋没し海はだいぶ先ですが、エフェソスがかつて港町だったんだという地理感が実感できます。
この大劇場、新約聖書の『使徒行伝』19章に記されたアルテミス騒擾(“Great is Artemis of the Ephesians!”の大合唱)が、実際に起きたと劇場といわれてます。ふ、ふ、古い。
アルテミス神殿は、古代世界七不思議のひとつ
アルテミス神殿、いまでは基壇が残るだけですが、一辺約100mの壇上に127本の高さ18mにもおよぶ大理石列柱と精巧な彫刻が施され、圧巻のスケールと装飾美を誇ったといいます。
それゆえの古代「七不思議」のひとつ。ピラミッド、バビロンの空中庭園、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスの霊廟、ロドス島の巨像、アレクサンドリアの灯台と並び称されました。もうね、なんでもかんでもスゴいんです。
とにかく広い遺跡。見学のポイントは?
- 見学ルートは上門→下門が下りになるので楽
- 遺跡が広いだけでなく、「テラスハウス」は階段が多いので歩きやすい靴で
- アルテミス神殿跡は、いわゆる遺跡の市街から少し離れているので、遺跡エリアとは別に考えると効率的
古代の音響…いまも現役のアスペンドス劇場

強烈に脳裏に焼きついているのが、南のアンタルヤ近郊にあるアスペンドス劇場。紀元2世紀に建造された劇場は、保存状態が段違いでおののきます。
ステージに立って「あー」「ひょー」とか言うと、とっても響くという。ローマ時代の俳優気分をどぞ。いまでも演劇やコンサートが開催され、2024年は31のフェスが開かれ、オペラの『アイーダ』も上演されてます。

カッパドキアでトルコは地上と地下世界を行き来する

カッパドキアは、なんといっても奇岩広がる特異な地形が有名。
ですが、その地下に広がる深い歴史も見逃せない。4世紀から7世紀にかけ、ローマ帝国の迫害を逃れたキリスト教徒がつくった地下都市デリンクユやカイマクル。多層に掘られた巨大迷宮は、複雑で広大な地下世界です。
当時最大で数万人が暮らし、教会、倉庫、ワインセラー、家畜小屋までが、この地下世界に整備されていました。 縦に走る通気孔、外敵をせき止める円盤状の石扉は、なにかこうこころにグッとくるものがあります。
迫害が終わった9世紀以降、人々は地上に戻り、現在のギョレメ野外博物館に岩窟教会群を築きます。
これらの教会フレスコ画は「やわらかな火山灰が固まった凝灰岩をくり抜いた洞窟」に描かれています。外光と風雨をほぼ遮る環境のため、11~13世紀の彩色が驚くほど鮮やかに残っています。地質的には凝灰岩(タフ)は加工しやすく、ほどよい湿り気を壁に保つというのも、まさに神の配剤。
原色に近い鮮明なフレスコ画がで、イエスの生涯や聖人たちの姿を伝えてくれます。

ビザンツ帝国の栄光と神秘の地下宮殿

ローマ帝国が東西に分裂すると、東ローマ帝国、つまりビザンツ帝国が誕生します。その都が現在のイスタンブール。当時コンスタンティノープルと呼ばれ、帝国の首都として繁栄を謳歌した都です。
アヤソフィア大聖堂のエレガンスとイスラムと
そして、その象徴がアヤソフィア。もともとはキリスト教の大聖堂として537年に建設されましたが、後にモスクへと転用。一度、博物館になったものの、2020年再びモスクになっています。
アヤソフィアの魅力は、なんといっても〝ふわりとした巨大さ〟。直径約32mの大きなドームが、4つのコーナーで受けられて、半ドームと連続して浮き上がっているように感じられます。このエレガントさはビザンツ帝国ならではのものなのかと。
モスクになったとはいえ、あまたある金地のモザイク画は、やはり大聖堂。とはいえ、モスクとしての礼拝空間への転用後掲げられた巨大な円形銘板(直径約7.5m)、ミフラーブ(メッカの方角を示す重要な部屋)が、キリスト教とイスラムの不思議な共存の空気を漂わせてる。
モスクの真ん中ぶち抜きでカテドラルを建てた、スペイン・コルドバのメスキータとは対照的な異種共存。両者をくらべるのもまた一興です。
こんな優雅な貯水槽!? ビザンチンのインフラ美

また、アヤソフィア近くの地下には、神秘的な「イェレバタン貯水槽(地下宮殿)」もあります。これは6世紀に皇帝ユスティニアヌスが建設した巨大な地下貯水池。52段の階段を降りていくと、336本もの巨大な列柱がつくる幽玄な水宮が広がります。
奥には、有名なメデューサの頭部像を柱に転用したものなど。なかなかほかでは味わえない幻想的な体験ができます。
カーリエで触れる圧倒的なビザンチン芸術
イスタンブール郊外では、14世紀、ビザンツ帝国後期に建てられた、修道院壁画の最高峰のひとつが見られます。旧コーラ修道院(→カーリエ博物館→モスク)。帝国最高のモザイク画やフレスコ画「最後の晩餐」や「聖母マリアの生涯」を描いた作品は、圧巻の美しさと精巧さです。
モスクでの礼拝空間にあるモザイクやフレスコは、礼拝時カーテンで覆うくふうがあり、宗教を超えて芸術作品への理解を示してます。
世界を震撼させたオスマン帝国の栄華
