北イタリア、フェラーリとバルサミコ酢の街といわれたモデナは、いまや世界でもっとも注目されてるシェフ、マッシモ・ボットゥーラの店「オステリア・フランチェスカーナ」がある街になりました。
ここは北イタリアで絶対行くべきレストランだし、多くの人がここの予約が取れてから旅のプランを立てる、そんな店です。
もちろんミシュラン3ツ星で、イタリアの有名グルメガイド『ガンベロロッソ』でも最高位の3本スプーン。
サンペレグリノ「世界のベストレストラン」の1,2位をつねに争ってる店としても知られてます。
でも、勘違いしてほしくないのは、ただのセレブ・レストランではないってこと。
この街モデナがあるエミリア・ロマーニャ州の食材、食文化、歴史を知らずに食べても、この店の真髄に触れたことには決してなりません。
美しいし、おいしいし、サプライズの連続だけど、その奥にはシェフのイタリア愛が、きっちりつまってることを理解して食べなきゃ意味のない料理です。
イタリア各地で地元の食材や伝統料理を食べ歩きしてから、最後にこの店で締めくくれれば…とても正しい。
でも、そんなことなかなかできないので、できるだけ詳しく料理を紹介していきます〜
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ダ・ヴィンチも食べてたウナギをマッシモ流に
たとえば上の料理。
ここフランチェスカーナの十八番、ウナギ料理です。
メニューには「ポー川をさかのぼるウナギ」みたいに書かれてますが…
これはイタリア半島の東側(右側)アドリア海に面したウナギの名産地、コマッキオから古都フェラーラ、そしてモデナへの歴史の旅を表現した料理です。
中世からウナギが名産だったコマッキオですが、ここのウナギは水路をさかのぼってルネサンス期に繁栄していたフェラーラの名家、エステ家にまで献上されてました。
そして、このエステ家の料理長を務めていたメッシス・ブーゴは、ラザニアなどを生み出した当時の天才料理人。
そんなレジェンドへのオマージュを、シェフのマッシモがこめたのかもと考えつつ、
エステ家が追放されてモデナにやってきた歴史とリンクした料理なのだと知れば、
すごく合点のいく料理なんです。
で、この時代。
あの『モナリザ』描いたレオナルド・ダ・ヴィンチも、フェラーラのエステ家に来てます。
だからウナギ、きっと食べたでしょう。
そして、シェフ・マッシモのマルチタレントぶりって、ダ・ヴィンチのそれくらいスゴい。
料理家、歴史研究家、郷土愛旺盛、チャリティ精神、アイディアマン…
ちょっと並みのシェフとは違うスーパーシェフなのでした。
で、この料理、味は、カバ焼に似てます。
タレの代わりに、地元のバルサミコ酢を煮詰めてつくったソースがかかっているというしだい。
60ユーロ(約7,800円)は、ただ高いわけじゃありません。
フランチェスカーナの定番、パルミジャーノの5変化
こちらは、日本でもよく知られたチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノでつくったアンティパスト(前菜)です。
このホワイトな一皿には5種類のパルミジャーノが5種類の調理法で盛られてます。
パルミジャーノの種類は24ケ月熟成、30ケ月、36ケ月、40ケ月、50ケ月熟成のもの。
それぞれをクリーム、デミスフレ(半スフレ状にしたもの)、泡々のスプーマ、あぶくのスキューマ、チップスに調理してあります。
濃厚だけどさっぱりという矛盾したテイストを舌に感じさせる逸品で、シェフ・マッシモの得意料理のひとつです。
地元のパルミジャーノだけで、これだけの一皿をつくれるシェフは、ほかにはいないでしょう。
60ユーロ(約7,800円)
オステリア・フランチェスカーナの遊びごころ
シェフ、マッシモ・ボットゥーラの料理を表現するのに欠かせないのが、〝おちゃめな遊びごころ〟です。
それはときにサプライズでもありますが、このアンティパスト「マグナム」は、シェフの子ども時代と現在を結ぶ橋なのだそう。
クランチアイスに見立てた見かけにダマされて、サクッといくと…
最初に、塩味と甘味がまざりながら口の中に広がり、つづいて濃厚リッチなフォワグラがとろけます。
とどめで登場するのが、やはりモデナの特産バルサミコ。
25年以上も熟成した、とっろとろのバルサミコがフォワグラから溶け出して、口いっぱいに広がる料理です。
見かけのキュートさとは裏腹の、なんとも贅沢で大人な逸品です。
70ユーロ(約9,100円)
シェフ・マッシモの真髄的一品「カモフラージュ」
これも有名な一皿で、デザート「カモフラージュ」。
〝茂みにいるウサギ〟がテーマだそうで、チョコレートに隠れたウサギのレバーペーストがミソ。
なんでも、ピカソが迷彩柄の戦車を見て「これぞキュビズムだ」と叫んだ逸話にインスピレーションを得たのだとか。
このあたりになってくると…なかなか理解困難ではありますが…
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なんともいえない、まったりとした濃厚なチョコのテイストに、レバーペーストの〝血の味〟を感じさせる一皿。
この塩気がまた絶妙にマッチしてます。
30ユーロ(3,900円)
冗談のようで大マジメが、フランチェスカーナの基本
この壊れたデザートは「〝ウップ〟落っこちちゃったタルト」。
厨房スタッフ(ちなみに日本人スタッフ)が文字通り落としてしまったタルトを見て、シェフ・マッシモがその様子に〝革新性〟を見出した一皿なのだとか。
でも、食材はすべて歴史的な食材で、レモン、ケッパー、ペペロンチーノ…、シチリアのものを使ってます。
そして、このデザートを生み出すきっかけをつくった日本人は、いま、スーシェフ(副料理長)としてこの店にいる紺藤敬彦さんです。
オステリア・フランチェスカーナは現代アートな料理
説明を聞かないとわからない料理なんて…
そう思う人もいるかも知れません。
でも、現代アートと一緒です。
つくり手の意図を知って、はじめて共有できるものがある。
それが、ここオステリア・フランチェスカーナの料理なんです。
だから、店内にもいろいろ現代アートが飾ってあります。
それもちょっとクスッと笑っちゃうようなものが…
オステリア・フランチェスカーナの料理は日々、進化
今回紹介した料理はすべて、人気の定番メニューです。
とはいえ、コンセプトだけ残してどんどん進化しているのだとか。
つぎに行ったら、まるでちがうプレゼンテーションで出てくる可能性はとても高いです。
でも、それだけ一皿一皿を大切にしているということだし、毎日が発見の連続みたいなことなのかもしれません。
ちなみに、帰りぎわ、お店からのおみやげとしてプレゼントされたバルサミコは、シェフ・マッシモの親戚がつくっているのだそう。
ミラノから電車で1時間半
2016年に、サンペレグリノ「世界のベストレストラン」で1位となって、いまや〝世界でいちばん予約の取れない店〟です。
8,000人のウェイティングリストができてるとも聞きます。
2017年4月、2位になりましたが、ヨーロッパのベストレストラン1位ですから、人気っぷりは変わらずのもよう。
2017年8月5日現在、11月末日まで満席。
12月の予約は、9月1日の朝10時(イタリア時間)からです。
ネット予約よりも電話のほうが確実かもしれません。
アクセスは、クルマだとミラノから約2時間、電車だと約1時間半。
一見、ベネツィアからのほうが近そうにも思えますが、ミラノからのが便利です。
メニューは、テイスティングメニューが2種類(9皿220ユーロ=約2万8600円・12皿250ユーロ=約3万2500円)とアルカルト。
初めて行くならやはりテイスティングメニューにワインをペアリング(130ユーロと170ユーロ)が王道とは思いますが…
シェフ・マッシモのスペシャリテをとにかく食べたい人は、予約の段階で相談してみるのもアリかと思います。
ちなみにワタシの中では、北イタリアならこの店。
南イタリアなら「トッレ・デル・サラチーノ」が、イタリアンの双璧です。
Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)
→オステリア・フランチェスカーナのサイトへ
Via Stella 22, Modena, Italia
+39-059-223-912
日曜・月曜休み
この記事はトラベルジャーナリストの大沢さつきが書いています
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